Single Mother
前編
俺があの人のもとを去ってから6年がたった―
「母さぁんー!!」
元気な子供の声が聞こえる。こいつは俺の息子、今はもう5歳になった。
「なんだよ、どうかしたか?」
「うん、宿屋のおばさんが窓が壊れちゃったから直して欲しいって言ってたよ。」
「そっか、わかった。じゃあ行こっか、アイヴィス。」
「うん!俺、母さんの錬金術好き!」
そして俺はアイヴィスと手を繋いで宿屋まで歩きだした。
ここは西の国境近くのヴェルという村。俺は今息子とこの村に住んでいる。
「おばさーん!母さん連れてきたよー!」
「あらあら、エドにアイヴィスいらっしゃい。ごめんなさいね、エド。」
「いいって。世話になってるんだし、これぐらい気にしないでよ。」
「ありがと。でね、2階の窓なんだけど・・・。」
そう言っておばさんは2階の部屋の一室へと向かった。
「この前すごい風が吹いたでしょ?元々ちょっとひびが入ってたんだけど風で壊れちゃったの。直せるかしら?」
「ん〜・・・大丈夫直せるよ。」
「本当?よかったわ。いつも悪いわね。」
「そんなことないって。いつでも言ってよ、直せるものなら直すから。」
「ふふ、ありがと。」
おばさんと話してる間に俺は部屋に置いてあった紙とペンを使って練成陣を書き、窓を直した。
「わぁ!直った!やっぱり母さんの錬金術はすごいな。」
「そうよー、あなたのお母さんはすごい人なのよー。」
「うん!俺、母さん大好きだよ!」
「俺もアイヴィスのこと大好きだよ。」
「へへへ。」
俺達がそんな話をしていると外からアイヴィスを呼ぶ声がした。
「ほら、アイヴィス。呼ばれてるぞ。」
「あっ、ほんとだ。遊びに行って来てもいい?」
「ああ。暗くならないうちに帰ってこいよ。」
「はーい!!」
元気よく返事をしてアイヴィスは外へ駆け出していった。
「じゃあ、お茶にしましょうか。」
「俺するよ。」
「いいのよ、あなたはそこに座ってて。」
1階へ降りてきて宿の待合の為に作られたテーブルのとこへ行くとおばさんはそう言って俺を椅子へ座らせた。
「はい、どうぞ。」
「ありがと。」
しばらくして、おばさんが紅茶とお菓子を持ってきてくれた。
「あなたがこの村に来て何年たったかしら?」
「6年・・・かな?」
「そう、もう6年もたったのね。どうりでアイヴィスが大きくなったわけね。」
「そうだなー。あいつもでかくなったなぁ。」
「だんだんエドに似てきたわね。」
「そうかなぁ?あいつは俺の母さんに似てきたよ。」
「そうなの?」
「うん。目は金と茶色が混じったかんじだけど、髪は茶色だし、なにより雰囲気が似てるんだ。」
「へぇ、エドのお母さんかぁ。もう亡くなられてるのよね。」
「ああ、俺が子どもの頃にね。」
「見てみたかったわ。エドの弟と幼馴染の人にも会ってみたいわ。」
「そうだな、いつか会わせるよ。」
「ふふふ、楽しみにしておくわ。ところで、エド。」
「何?」
「あなた本当にいいの?アイヴィスの父親のこと。」
「うん、いいんだ。」
「一生1人であの子を育てるつもり?」
「ああ。アイヴィスには辛い思いさせちまうけどどうしようもできないんだ。俺、結婚してないし。」
「そうね。相手の人のことは聞かないわ。結婚しないのには何か理由があるんでしょ?」
「うん。ごめんね、こんな迷惑かけてるのに何も話さなくて。」
「いいのよ。もうあなたは私の娘みたいなものなんですもの。私だけじゃないわ、この村の人たち全員の娘みたいなものなんですもの。
遠慮なんていらないわ。」
「ありがとう、おばさん。おばさんの娘さんに怒られそうだ。」
「ふふ、あの子も大事だったけどもうお嫁にいっちゃったし、寂しかったけど今はエドがいるから寂しくないわ。」
そして俺達は笑った。
俺は今、23歳になった。17歳の時、人間を材料にした賢者の石じゃない賢者の石を発見し、俺もアルも無事元に戻った。
1週間は2人とも上手く身体が動かせなかった。
1週間後、2人揃って軍に顔をだした。大佐たちはすっげぇびっくりした顔をしてたけど皆揃って「おめでとう!」と言ってくれた。
その後、大佐の家でパーティを開いてくれた。中央からアームストロング少佐にロス少尉、ブロッシュ軍曹、シェスカにヒューズ中佐一家も駆けつけてくれた。みんな俺たちの姿をみた瞬間俺たちを抱きしめてくれた。(アームストロング少佐は遠慮した)
よかったな、おめでとう、お疲れ様と言ってくれた。俺は不覚にも少し泣きそうだった。こんなにも自分達のことを心配してくれていた人たちがいたことが嬉しかった。
大人たちは「祝賀会だ!」と言って俺たちにも酒を飲ませた。ホークアイ中尉やロス少尉やグレイシアさんが止めたけど酔いの回った男達に勝てるはずもなかった。
アルは酒に強かったらしく、いくら飲んでも平然としていた。対する俺は最初は全然平気とか思ってたけどだんだん酔いが回ってきてはっきり言ってそれ以降の記憶がない。
でも、事件が起こった。
あとでアルに聞いた話だけど、途中で酔い潰れた俺はそのまま寝てしまったらしい。その日はハボック少尉のとこに泊めてもらう約束
だったけど、俺が酔いつぶれてしまって朝まで起きないからハボック少尉に迷惑がかかるからって大佐の家に泊まらせてもらったらし
い。
でも、朝目が覚めると、俺は何も着てなかった。びっくりした俺は隣に寝ていた大佐を蹴り起こし、どういうことかと怒鳴った。すると大佐
は、
「君が抱いていいと言ったんだ。覚えてないのかい?」
と言った。当然俺は覚えてるわけもなく、頭が真っ白になった。俺は大佐に父親に抱くような感情を抱いていた、だからまして恋愛感情
だなんてもっての他だった。信じられなくて、布団を頭からかぶって泣きそうな自分を見られないようにした。
「まさか、本当に覚えてないのかい?」
ちょっと焦ったような大佐の声が聞こえたけど俺は聞こえないふりをした。今返事をしたら泣いてしまいそうだった。
「そうか。すまなかったな。服はここにおいておくから。私はもう出勤しないといけないから、君は好きにしなさい。」
大佐はそういって部屋を出て行った。残された俺はどうしようもなくってしばらく布団にくるまってたけど、とりあえずこの家を出ようと思っ
て服を着て、適当に飯を食べて大佐の家をでた。
大佐の家を出た俺はアルを連れてリゼンブールへ帰った。
それから2ヶ月ぐらいたってから俺の身体に変化が起こった。急に気持ち悪くなったり、すっぱいものが欲しくなったり、あんまり食欲は
ないのに少し太ったり・・・。
その変化にいち早く気付いたのがウィンリィだった。
「エド、あんたもしかして妊娠してるんじゃない?」
またしても頭が真っ白になって何も考えられなかった。
そしてちゃんと検査をするとやっぱり妊娠していた。俺は、アルとウィンリィにすべてを話した。あの夜の出来事と大佐は悪くないこととそ
して国家資格を変換してどこかの村へ行ってこっそり子どもを産んで1人で育てることも話した。アルとウィンリィは大佐に話したほうが
いいって言ったけど俺はしたくなかった。
昔、俺が国家資格をとって2年ぐらいたったころかな?女遊びは激しくて結婚の話もたくさんあったけど結婚しない大佐に俺は
「将来子ども欲しい?」
と尋ねた。すると大佐は、
「子どもは標的にされるし、私の野望の為に邪魔になる。」
と言っていた。俺は大佐に何の感情もなくただ聞いてみただけだったからふ〜んと流した。でも、今となっては大佐のその言葉を知って
いただけに言うことはできないと思った。そのことを2人に話し、納得させて、大佐に何を聞かれても知らないで通して欲しいと頼んで国
家資格を返還するために中央へ向かった。
大総統にすべてを話し、国家資格を返還することを了承してもらえるよう頼んだ。大総統は少し考えたあといつか子どもを見せに来るこ
とを約束として了承した。
俺はそんな大総統に感謝し、中央を後にした。
そして、俺が今いる西の国境近くのヴェルという村に着いた。人口は100人にも満たない小さな村だった。俺は列車から降りてしばらく
歩いていると吐きそうになり近くにあった宿屋に駆け込んだ。そこがあのおばさんの宿屋だった。顔を真っ青にして飛び込んできた俺を
おばさんは何も聞かずに親切にしてくれ、しばらくここにいるように言ってくれた。
俺はおばさんに妊娠していることを話した。するとおばさんはずっとここにいていいと言ってくれたけど俺はこの村に住もうと思っていた
から家を紹介してもらえるように頼んだ。
おばさんは村長に頼んで家を紹介してもらった。小さな村だから話が回るのが早く、村の人たち全員が俺の世話をしてくれた。そんなこ
とがあったから俺は今そのお返しをしたかったんだけど、何も思いつかなかったから得意の錬金術で困ってる人とか壊れたものとかを
直してるんだ。もちろん、ちゃんと練成陣を書いて。
俺がこの村に来てしばらくしてアイヴィスが生まれた。みんな自分のことのように喜んでくれた。
俺も嬉しかった。と、同時にこの子に父親のいない子にしてしまったことをこの子に謝った。
アイヴィスが4歳の時、突然「俺にはお父さんいないの?」と聞かれた。俺は正直ビクッとなってしまった。いつかは聞かれるとは思って
いたが、こんなに早くに聞かれるとは思ってなかった。でも、俺はずっと用意していた言葉を言った。
「お父さんはいないんだ。ごめんな。」
じっと俺の言葉を聞いて俺の顔を見たあと、
「そっか。」
と言った。俺は思わずアイヴィスを抱きしめた。
「ごめんな。ごめん。本当ごめん。」
ひたすら謝った。俺には謝ることしかできなかった。
「ううん。いいよ、俺には母さんがいるからいいんだ。」
そう言ってくれたアイヴィスに俺は感謝するしかなかった。そしてこの子に何の苦労もさせたくないと思った、父親がいない分俺がこの
子を誰よりも愛そうと思った。それ以降アイヴィスが父親の話をすることはなかった。よっぽど俺はひどい顔をして言ったんだろうなと思った。

